SOMEWHERE

ホテルのラウンジ(バー?)で、弾き語りの老歌手の歌声に身を任せる二人。二人には本当に価値のあるものがキチンと分かっています。

パートナーなのだと思います、二人は。同じ孤独と、同じ倦怠と、同じ不安を抱えたパートナー。
ずっとずっと堪えてきた感情を爆発させ、ぽろぽろと涙を流す娘。
「そばにいてやれなくてごめん。」
そう言うことしか出来ない父親。
娘に先に泣かれてしまうと父親にはそう言うことしか出来ません。
そして彼が戻れる場所は高級ホテルの一室だけ。空虚な毎日。心の通じ合わない人々。クルマ、酒、女・・・。
「俺は空っぽの男だ。」
必死で絞り出したギリギリの言葉すら、誰にも届きません。誰にも。
誰だって泣きたくなる。自分が空っぽだっていやと言うほど知っていて、それなのに本当のちっぽけな自分を許してくれる人がただの一人もいなかったとしたら。

執拗なほど多用されていた長回しは効果的でしたが、一番強烈だったのは特殊メイクのための顔型をとるシーンでしょうか。あれは一種のホラーでした。
たった一人で何もいわず身動きもとれず息も出来ず、ただじっと我慢して“つとめ”を果たしたら、自分がしわしわの老人になってしまっていたっていう。

思えば「ロスト・イン・トランスレーション」も年の離れた男女がパートナーとなる映画でした。
遠い異国でコミュニケーションの不便を感じながら、孤独や将来への不安を抱えながら、心を通わせ合う二人。
あの映画も自身の体験をもとにしたと確か言っていたけど、今回の作品もやはり彼女にしか撮れないものだったと思います。

映画の中の彼女が、もし父親と同じ世界に進み、そこで生きることを選んだとしたら?
そこにあるのは父親と同じ孤独や倦怠や不安なのか、それとも違う場所に一歩踏み出した新しい境地なのか?
ふと、そんなことを想像したくなってしまいました。

Follow me!

SOMEWHERE” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です