日曜日になると団地の商店街にあるスポーツ新聞の自動販売機まで競馬新聞を買いに行って、父からお駄賃を貰うのが楽しみだった。
時には競馬場まで連れて行ってもらったりもした。大抵、母と姉は留守番で、そういう場所は「男同士の秘密」で大人の男のカッコいいことをマンツーマンで父から伝授してもらう機会だった。
自分だけが大人として男として扱われるのが嬉しかったし、(当時は)家族連れで楽しむような場所でないところに連れて行ってもらうのもワクワクした。(そういう意味では競馬ではなくて競輪には今もそういう雰囲気が残っているかも)
ヒーローになって目立ったりしなくていい、ホームランでなくてフォアボールでもいい。父は自分の体験談と照らし合わせて、そんな話をしてくれた。そう言えば、父から「偉くなれ」「一番になれ」「成功者になれ」と言われたことは多分一度もない。仲間と、家族と、とにかく愉快な人生を生きればそれでいいとそんなことばかりだった。それでも自分が期待されてないとは思わなかったし、父をちっぽけでつまらない男だと思ったことは一度もない。彼は僕の中で最も身近な「カッコいい大人の男」の代表選手だ。永遠に。

ひょっとして、ひょっとして、彼が、思った通りの大人になれなかったのだとしても、だ。

この映画は僕の映画だ。僕の家族の映画だ。僕の父と母と姉と、それから妻と娘たちの映画だ。
思い通りにならない一日を、嵐の夜を、台風一過の朝を共に迎える家族の物語だ。
2016/6/23