白でも黒でもない(「日の名残り」)

白黒つけたがる雰囲気に窮屈さを感じる。
僕たちの日常は、その間の広大な灰色のゾーンにあるのに。
妥協点や共通点を見出すための粘り強い対話を放棄して、すぐに相手を攻撃し、徒党を組んで袋叩きにして承認欲求だけを満たす。
うんざりする。

勧善懲悪、単純明快な映画も時にはいいけど、僕はやっぱり、自分の世界を無限に広めたり、あらゆる解釈を通して対話を生むような作品が好きだ。
何度も映画館に足を運び、その世界の住人になって、誰かの人生の秘密と夢に思いを馳せたい。

同じ映画を劇場で繰り返し見るようになった最初の作品はジェームズ・アイヴォリーの「日の名残り」だった。暗闇に身を沈めて、あの屋敷の住人になって、執事になって、そこから世界を眺めているのが心地良かった。

大戦の直前、屋敷に集った政治家たちの一人が執事に政治情勢についての意見を求める。主人を尊敬し、主人を通して世界のありようを見てきた執事は頑なに意見を口にすることを拒み「I don’t know」とだけ答える。何を問われても、何度も何度も。

誰かの人生には、白黒つけるよりも、ずっと大切なものがある。
たとえばプロフェッショナルとしての矜持だったり、秘めた恋心だったり・・・。

白でも黒でもない、そういうものにこそ、時間を費やす価値がある。
何度でも何度でも。

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