鉄塔武蔵野線

「本格派鉄塔ロードムービー」

また夏がやってきた。僕の大好きな夏の映画がまた一つ増えた。

その昔、男の子だった人なら誰でも同じ様な経験をしたことがあるはず。だから僕もそんな自分を思い出しながら、ホクホクしながら二人の大冒険を見詰めていました。「なぜそんな事をするのか?」って。そりゃあ「そこに鉄塔があるから。」でしょう。

でも、僕の大冒険はアキラと同じ様に日が暮れるまで。日が暮れても鉄塔にこだわり続けるミハルは意外でした。それは当然鉄塔がミハルにとっては「そこにあるもの」以上の意味を持っていたからに他ならないのですが。意外だっただけに、一人ぼっちで歩き続ける彼の姿に、不覚にも何度か涙腺が弛緩してしまいました。

一夏の経験は少年を大人にします。ミハルもたった2日間の間にみるみる逞しくなっていきました。一般的には逞しくなるということには、「現実と折り合いをつける。」という事も含まれているような気がします。日暮れと共に引き返したり、4号鉄塔で諦めて車に乗るようなことです。

でも、彼はもう一度1号鉄塔を目指すんですよね。少年は少し大人になりました。でも子供のような冒険心も失わなかったのです。恐らくは彼の父親と同じ様に。

「大人へと成長していく少年」と「少年の心を失わない大人」。この映画は自分の中の二人の自分に語りかける映画のようです。

「僕はその時が自分にとって一生の中でも最も幸せな時間だということに気がつきました。」

鉄塔に耳を当て、少年はそう感じます。予告編にも使われいたこの台詞ですが、僕は最初どうにも好きになれませんでした。(この台詞だけでなく台詞以外の少年の独白は全て不要だと思いました。)もしこの時少年が本当にそう思ったのだとしたら、寂しすぎると思ったからです。

でもよく考えてみるとこの台詞は「大人へと成長していく少年」の言葉ではなく「少年の心を失わない大人」へのメッセージだったのかもしれません。
97/07/04(金) 22:03

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