白くて柔らかい手だと褒めてもらった。
この手は父親譲りの手だ。

「この手は博打打ちの手だ。力仕事や苦労を知らない手だ。」

と、僕の幼い頃、自分の手を見せながら父はよく話をしていた。
男らしさを誇示したり、仕事の話をしたりしたことはなく、かわりに勝負事(競馬、麻雀、パチンコ、将棋 etc)の話ばかりする人だった。
それも負けた話が結構多くて。
あまり目立ち過ぎないこと、頑張り過ぎないこと、勝ち過ぎないこと、人生を分相応に楽しく生きること、そんなことをよく話してくれた。

母親似だと言われることが多かったけど、声と、それから白くて柔らかい手は父親そっくりになった。

勝負事は嫌いではないけど父ほど深入りすることもなく彼ほどの博才もない。
彼ほど自由には生きられず、会社勤めをしている。
だけど、今、ちょうどあの頃の父の年齢になって分かることもある。それからあの時の父の言葉に今頃になって救われることもある。

「声がお父さんにそっくりやなぁ。」
と皆から言われ
「お前の手は俺に似てるなぁと」
と父から言われ、

子供の頃の僕はそれが何よりも嬉しかった。
誇らしかった。

この白くて柔らかい手は父親譲りの手だ。