パフューム ある人殺しの物語
絞首台に乗せられた主人公が最後に見たものは?
これから始まる処刑を前に狂喜する群集。憎悪の視線も、罵詈雑言もその全てが自分ひとりに向けられたもの。やがて体に打ちつけられる硬く重い棒。その中で彼は今まで自分が会うことの出来なかった父親の愛情を思い浮かべていたのでした。恍惚の表情を浮かべ快楽を感じていたのは彼自身。やがて意識を失った彼を今度は母親の愛が包んでくれます。骸となった彼をカラス達がついばんで跡形もなくなってしまうまで・・・。
この映画全体を壮大且つ馬鹿げたパロディだといってしまうことも勿論可能です。
「ラン・ローラ・ラン」でその才能を世に示したトム・ティクヴァは主人公が一貫して憧れる理想の女性を赤毛にし、しかも彼女にローラという名前までつけています。私生活でも初代ローラ役のフランカ・ポテンテと交際した後に別れているという念の入れよう。
パロディだと言われることは別に構わない。でも僕はこの映画を「低俗で無価値な映画だ。」という人には賛同できません。
お金で買える娼婦から始まって、自分の前にひざまずくローラの父親、更には自分を産み落とした母親まで彼の求めるものは次第に根源的なものへと向かっていきます。崇高なものへ向かっていったと言ったら言い過ぎでしょうか。
物議をかもし出したあの型破りなラストシーン。でもある一人の男の人生と彼が求め続けた愛にはそれだけの価値があるのです。彼がただの殺人者であったとしても、稀代の調香師であったとしても。映画も人の人生も、誰からも忘れ去られ小瓶の中の香水のように跡形もなく消え去ってしまうかもしれないとしても。
2007年04月05日18:47