名もなき人に光を(「64」)

瀬々敬久監督ならではの長尺で劇場公開時は前後編分かれて見ることになったが、僕はクライムサスペンスメインの後編よりも前編の方が好きだ。
前編の最後の方に主人公である広報官が記者クラブの記者たちと対峙する場面がある。険悪な雰囲気の中で、佐藤浩市演じる広報官の三上が、ある一人の老人のことを語りだす。交通事故の犠牲になって命を落とした一人の老人の話。

利益や効率やスピードの名のもとに、視聴率とか発行部数とかPVとかばかりが独り歩きして「数は力」「効率は正義」の名のもとに切り捨てられ、忘れ去られる人がいる。

慎ましい日々を、ごく限られた家族と積み重ねて、その先に死んでいった一人の老人。
そういう一人一人の人生に光を当てられないで、何が作品だ、何がドラマだ、何が映画だ、と思う。

誰でもが主人公であるという揺るぎない信念と、厳しくも優しい眼差しが感じられる作品が僕は好きだ。

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