鬼平とルコントと・・・

フジテレビの中村吉右衛門さん版の「鬼平犯科帳」を改めて見返していて、三浦浩一さん演じる密偵伊三次の生い立ちが「色街で育てられた孤児」だと知って、思い出した作品がある。
パトリス・ルコントの「歓楽通り」。
娼婦と客の間の子供として生まれ、娼婦街で育ち、娼婦たちに献身的な愛を捧げる中年男。
颯爽として粋な伊三次と表面的には正反対だけど、娼婦たちの温かさ、優しさに育まれて、彼女たちに無償の愛情を持ち続けているという意味で二人は兄弟のような存在だ。

よくよく考えてみると、ルコントと鬼平の原作者である池波正太郎さんの描く世界も似ている。
大人の男と女の、善を為す悪人と、悪事を為す善人と。恋と情けと、どこまでも大らかな人間賛歌と。痛快な娯楽作品でありながら、上品な香りが漂う芸術作品でもある。それから江戸とパリ。日本とフランス。
度々、来日しているルコントは、江戸の文化をどれくらい知っているのだろうか?池波正太郎という稀代の時代劇作家を知っているだろうか?日本人に愛されている鬼平というヒーローの活躍譚を知っているだろうか?
鬼平が妻に淹れてもらったお茶を飲む、あの縁側で池波正太郎とルコントの二人が並んで、作品論や文化論や人間賛歌を語り合う光景を見てみたくてたまらない気持ちになる。

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