ANORA アノーラ
全てのものを金に換算して、関わるもの全てを奴隷のように扱うゲームの中に僕たちのジカンの大半は搾取されています。時にはカラダとか、ココロとかまでも。
ゼロサムゲームとはよく言ったもので、粉飾に粉飾を重ねて膨れ上がったように見えて、その実はゼロ。巨大な、底なしの、そしてどこまでも下品なゼロ。
下品な糞が肥やしになって、木は下品な実をつけ、それを下品なサルが貪り食って、また下品な糞が生み出される、気が遠くなるほど下品で下品で下品なゼロ。
乱痴気騒ぎと、滑稽なドタバタ劇と、空虚な家族と・・・映画の大半をかけて下品なゼロを垂れ流し続けた、この世界に、ゼロでない何かがあるのだとしたら・・・。
一人ぽっちで、自分でも気がつかないうちに涙があふれ出てきてしまうその時に、
ただそばにいて、ただ寄りかかって涙を流させてくれる誰かがいること。
窮屈な車の中の、ほんの数分のワンカットの、ただそれだけの、ゼロでない希望。
カウリスマキ、ケン・ローチ、それから楊徳昌・・・
何も生み出さない下品な糞まみれの世界の中の、小さく慎ましい希望、ギリギリの希望、大切な誰かと気持ちを通い合わせることが出来る、ただそれだけの希望。