大阪物語

東京生まれで東京育ちの市川準が「大阪」を舞台にしているということで、とても興味深かった作品ですが、どちらかというと二つの街の違いよりも共通した雰囲気のようなものを感じました。
「東京兄妹」「東京夜曲」の2作品を今まで見ていますが、僕はいつも彼の映画から浮遊感のようなものを感じていました。東京という街にしっかりと根を下ろして生きているというのではなく、ふわふわと漂いながらそれでも東京が好きで、東京から離れられない雰囲気のようなものが・・・。まるで市川準という人がどこか他所から来たような不思議な感覚がいつも映画の中にあって、それがとても好きでした。
脚本の犬童一心さんは一昨年「二人が喋ってる」を見てますが確かこの方も大阪の方ではなかったと記憶しています。客観的に大坂を見た視点が心地よく、そのあたりが市川監督と相通じるところが大いにあると感じました。

そこに住む人を縛り付けるわけではないのに、いつも優しく包みこんでくれるような街の魅力は、人々同士の繋がりにも反映されているようです。娘が父親を探して歩いた先々で人々が語る彼への印象がそのまま大阪という街に寄せる愛情になっていました。
街を漂う少年と少女にふと優しく声をかける青年

「可愛い子連れてるやないか。」

僕は何故だかこの一言を聞いて涙腺がじわじわ緩みました。多分大阪という街が二人の大阪っ子を優しく抱いた瞬間だったのでしょう。

言葉にしてはいけないことまで「お笑い」として口にしてしまっているようで、実は本当に言いたいことはぐっと胸の中にしまっている大坂の人々。気丈な少女の沈黙が一番雄弁でした。
池脇千鶴ちゃん、濃い眉毛が印象的でとても良かったと思います。

田中裕子と沢田研二は期待通り見事な演技でした。特に沢田研二は良かった。
客からは「自分では決して真似出来ない生き方」を求められる芸人達。「笑われているのではなくて、笑わせているんだ。」と見栄を切って全ての生き様とさらには死に様まで「笑い」にしてしまう芸人の悲哀を見事に演じていました。

脚本の犬童さんは「二人が喋ってる」のときには一歩届かなかった「死ぬことまで笑いにする」という芸人の生き方をこの映画のなかではきちんと取り込んだようです。

もう一度見たい映画です。
99/05/02(日) 22:32

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