東京いろいろ(「東京兄妹」「まほろ駅前多田便利軒」「海よりもまだ深く」)
市川準監督の「東京兄妹」の風景は文京区あたりらしい。
歴史を感じさせる質素な戸建ての家が連なる住宅街。
二人が乗る都電荒川線。銭湯の煙突。川原の土手。
恐らくは兄の意志で、自ら世間と隔絶された暮らしをすることを選んだ兄妹の、奇妙な、ただならぬ二人暮らしに最も適した昭和の東京。
23区だけが東京ではなくて、都下なんて失礼な呼ばれ方をされる東京近郊の町にもそれぞれに雰囲気があるわけで。
我等が町田市のそれを完璧に再現しているのが「まほろ駅前多田便利軒」。
雑然としていて、ざらざらとした不穏な雰囲気もあり、人と人が決して目を合わせず、距離を置いている。だけどそこには人と人、人と町を離れがたくさせる不思議な引力のようなものもあって。
あとは「海よりもまだ深く」の団地も都下清瀬市。
高度経済成長の頃に東京から数十キロの半径内に無数に出来た巨大団地のうちの一つ。それらの大半は高齢化と建て替えの波にさらされて、静かな閉塞感のようなものが漂っていて。だけど家族が家族らしく機能していた頃の昭和の昔を思い出させてくれるモニュメントが彼方此方に点在している。僕は個人的には、あの小さなケーキ屋が実に団地商店街っぽくて好き。
映画の中と、それから自分の目と足で、それぞれに振り返って見たくなる様々な「東京」がそこにはある。