シャンドライの恋
夫との悲劇的な別れから、彼女は女性としての情念を自ら封じ込めてしまったのでしょう。彼女は情念の代わりに理性を選び、全ての物事を頭で理解し解決しようとします。恐らくは無意識のうちに。
彼女にとっての夫の存在はその時から「尊敬の対象」に変わっていきます。行き場を失った情念を理性にすりかえて。
しかし彼女の中には、女性としての情念が消えることなく残っています。魂を揺さ振るようなアフリカンミュージックの響き。彼女は決してそれを捨て去ることは出来ませんでした。彼女にとってのあの音楽は、故郷や夫への思いではなく、自らの性、情念への思慕をあらわすものだったのでした。
彼女の情念を呼び覚ますようにピアノの切なく官能的な調べが押し寄せてきます。ピアノの響きを思い浮かべ快感に身を委ね、情念の赴くままキンスキーのベッドに忍び込むシャンドライ。彼女は思います、「自分はこの男を愛しているのだ」と・・・。
違います。彼女は決して彼を愛しているのではない。それは彼女の中の女性としての情念が再び目覚めた瞬間だったのでした。
ベッドから飛び出すシャンドライ。彼女の選択は「夫か?キンスキーか?」という問いに対するものではありません。そんな生易しいものではない。それは不安定で、理不尽で、しかし強く彼女を捉えて離さない情念に従って生きることを彼女が選択した瞬間でした。
00/03/05(日) 23:25