ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
実はとても可愛らしい映画。
矛盾だらけ、欠点だらけの人々同士が引き起こす化学変化。
予告編を見る限りでは、もっとシニカルでもっと癖のあるキャラクターがアクの強い演技をする映画なのかなぁと思っていたのですが、思いのほか後味が良かったです。
もしこの素材で直球勝負をしていたら、さすがにベタベタの家族の再生の話になっていて、それはそれで引いてしまったかも。また逆にアクの強さだけで押し切っていても結局は淡白で印象が薄くなっていたかもしれません。そのあたりのバランスは絶妙だったといえます。
群像劇を見る時、僕の評価軸はほぼ一つしかなくて、それは自分と登場人物一人一人の“距離”です。
距離が近い場合は自分を彼らのすぐ隣に据えて、目一杯感情移入しながら楽しみます。遠い場合は一人一人の人物の繋がりや構成の妙を少し高い所から俯瞰して楽しみます。
さて、この映画は・・・。
これは、この映画の後味が悪くなかったこととも関係しているのですが・・・
最初は「奇妙で奇妙で自分と全く接点を持たない人のシニカルな悲喜劇」として始まったこの作品はいつの間にかスルスルと僕との間の距離を縮め、気がつくと僕の傍らにちょこんと腰掛けていました。
いつのまにか、屋上に並んでタバコを吹かしているマーゴとリッチーの二人のように。
僕の場合は、群像劇を見る場合、最初から彼らとの距離が詰まっていたり、最後まで距離を保ったまま見終えたりすることの方が多いので、この作品は希有な存在であるといえます。
ストーンズやヴェルヴェッツ等の“隠れた癒し系サウンド”も、瑣末主義をくすぐられる嬉しいアイテムやエピソードの数々も、あとから気がついてみると、少しずつ彼らと僕の間の距離を埋めてくれていました。
でもやっぱりハックマンかなぁ。登場人物中最もノビノビとしていて、最も可愛らしかった彼。孫たちを連れて“悪さ”をしに出撃するシーンが、とても好きです。
02/10/10(木) 23:41