グロテスクな魚が語り部となる一風変わったお話という前評判を聞いて劇場に出かけました。

全編を貫く水や血のイメージは統一感があり、映画の世界を大きく広げていました。予告編や前評判から期待していたものに十分答えてくれていました。こうしたイメージの世界にどこまでも入り込み、前衛的な作品にしてしまうことも可能だったのではないでしょうか。もしそうなっていたとしても僕は少しも怒らなかったでしょう。

しかし、この作品はそうしたイメージの世界を脇に追いやり、「一人の女性の成長の物語」として見事に成立しています。予想していたよりずっと直球勝負でした。

「貴方と寝たいの。」

容姿端麗で経済的にも恵まれているヒロインが実は自分の感情を素直に表現することが極度に苦手な人物であるという設定は決して珍しいものではないのですが。虚言症の彼女はきっとそれまで本当に好きな男性にその気持を伝えたことがなかったのでしょう。また彼女のことを本当に大事に思ってくれる相手もなく、彼女の体や財産を目当てに言い寄ってくる人物は大勢いたのではないでしょうか?彼女は本当に癒される男性に出会って自分から思いを伝えたことがなかった。だからあの唐突な言葉に繋がっていったような気がします。

全ての人物がどこかで微妙に繋がっているという設定も好きです。「魚」の使い方や彼女の部屋の「トイレ」の使い方などもいいです。それから地下鉄のホームとバーで登場し、味わいのある余韻を残して去っていく太っちょの男も効いてました。

器用に印象的なイメージを繋ぎ合わせる作品に逃げることをせず、映画にも登場人物たちにも愛すべき不器用さのようなものが漂っていて、僕にとって、とても後味の良い作品になりました。
01/08/30(木) 22:24

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です