麦の穂をゆらす風

「誰も敗者にならない戦い」を映画にしてきたケン・ローチ。それは僕達の目には大抵の場合「誰も勝者にならない戦い」と映ります。
過酷な戦いを生き抜き、束の間訪れた平穏の先に結局は再び殺し合わなければいけなくなった同胞、兄弟。あまりに辛くて重くて救いのない映画だと。

でもケン・ローチは人を不安や絶望に陥れ、安易な問題意識や同情を煽るような無責任な映画監督ではありませんでした。

「マイ・ネーム・イズ・ジョー」で主人公の背中にそっと添えられた手
「SWEET SIXTEEN」で途方にくれる少年に話しかける姉からの電話
やはりこの映画でも最後のシーンにはケン・ローチならではの究極の希望が込められていました。

自らが手にかけた弟の手紙を弟の妻のもとに届ける兄
「誰と戦うかはすぐ分かる。何の為に戦うかを考えろ。」
この映画の中で最も力強いこの言葉を彼女に届けるために彼は彼女のもとを訪れたのでした。
泣き崩れ、兄を責める妻と立ちつくす兄。

戦争を疑い、平和の訪れが未だ遠い先だと語りながら、愛する人の幸せと未来の平和を切々と祈った手紙。決して逃げることなく兄自身の手で届けられたこの「究極の希望」には、戦う映画監督ケン・ローチの覚悟をも見ることが出来ました。

2007年03月22日18:46

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