感じる力
そこに集まる人が自然に笑顔になり、打ち解けて、満足して帰って行く。
「パリのレストラン」はそんなレストランのお話だった。
他人の喜びを自らの喜びとし、誰にでも心を開き、惜しげも無く自らの料理を振る舞う。ゲストの胃袋だけでなく心まで満たしてくれる。
人の気持ちを分かる人、人の気持ちを感じられる人でなければシェフはつとまらない。
でも愛すべきそのシェフは人の心を温かくする味を再現するための舌を失ってしまう。そのことを隠し通し、静かに店を閉じる。
でも、そこに集う人はみんな知っている。彼の本当の価値は美味い料理を再現する舌ではなく、人の心の痛みを察することのできる心の方にあるのだということを。
「パパ、愛してる」
調理服の隅に、息子はそっとそれだけ書いて尊敬する父をハグするのでした。