レインマン

6歳の娘がオーブントースターでパンを焼こうとしていて
「気をつけてね。一人の時は絶対勝手に触っちゃいけないよ。」
と言ったときに「レインマン」を思い出した。
ダスティン・ホフマン演じる兄がオーブントースターから煙を出し、パニックを起こしてしまい、トム・クルーズ演じる弟が、大慌てで煙探知機を止め、兄をなだめる、あのシーンだ。
そして、それがきっかけで兄弟が離れて暮らすことになった理由も明かされる。「レインマン」というタイトルの意味も。
気がつけば公開から30年も経った。30年前に「レインマン」が好きだ、というのには、少しだけ勇気が必要だった。年に100本以上見るシネフィルたちに鼻で笑われるのはイヤだったし、当時の僕は年に10本も劇場で見てなかった。
でも今なら、この作品が好きだと言っても(もし当時言ってたとしても)何の問題もないのだということがよく分かる。シネフィルの言うことにいちいち耳を傾ける必要はないということも、ダスティン・ホフマンが名優だということも、30年間の保証つきで証明することが出来る。
そして、トム・クルーズはトム・クルーズであり続けた。
いつまでも未成熟で、だけど決して捻じ曲がらず、真っ直ぐな道を胸を張って進むことが出来る「永遠の青二才」。それが彼だ。未成熟な彼は、決して沈思黙考して達観するのではなく、走って、もがいて、一喜一憂した先に真実に辿り着く。スイスイと世の中を渡り歩いているように見えて、実は誰よりも不器用な彼が、少しずつ、少しずつ、兄と心を通い合わせる様子に嘘はない。僕は決して嘘をつかない、嘘をつけない彼が大好きだ。彼のその不器用さにこそ、皆が惹かれる。「レインマン」の恋人役の彼女もそうだし、「ザ・エージェント」のレニー・ゼルウィガーとかも、そう。

数時間の飛行機の旅が、幾つものモーテルを経由する車の旅になり、1枚の遺産相続の書類が久し振りに再会した兄弟のぎこちない交流に変わる。それこそが、この世を去った父親が最後に託した希望だったのかもしれないということも、30年を経て二人の姉妹の父親になった今なら分かる。

「気をつけてね。二人だけの時も触っちゃダメだよ。」
娘たちに今はそう言うしかないが、いつかは不器用な二人が、二人だけで交流をして、支え合って、長くて真っ直ぐな道を一緒に進んで行って欲しいと思う。
「悪い時は1枚、良い時は2枚。」
「それじゃ、2枚賭けろ。」
二人に良いことが沢山待っていますように。

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