Jam
「何でもないわ。花屋さんがお花を届けてくれたの。」
こんな上手な嘘を、あっさりと、さり気無く言える人を僕は知りません。素敵でした。
でも僕は嘘をついた本人ではなくて、それを聞いていた若者のほうが羨ましいと思いました。さらりと嘘をつける人よりも、自分に正直な為に器用に生きられない若者に僕は憧れてしまったのです。しかも彼は世の中には咄嗟に器用な
嘘をつける大人がいるんだということを知るのですから。
経済成長だったり、合理主義だったり、富や権力だったり、そういう「極彩色の世界」の中で見えなくなってしまう真実。ほのかに思いを寄せている人に思うように気持ちが伝わらず、涙を流すジャジャが羨ましい。
でもこの世はやっぱり白と黒だけで出来ているわけではありません。真実を歪曲したり、見えなくさせている極彩色の世の中で僕たちは生きているのです。
この映画はそんな世の中を批判するのではなく、嘆くのでもなく、そこで大切な何かを見つけ出し、生きていく勇気を与えてくれる作品です。映画の中の若い二人も、ただの恐いもの知らずの無軌道な若者には止まらず、次第に現実を見つめ、現実と格闘し始めていきます。
さすが、片腕だけあって、エドワード・ヤンの映画の本質を良くわきまえている人です。
映画を越えた映画があるように、その極彩色の映画の向こうには自分だけの真実が優しく待っていてくれるような気がする暖かいエンディングでした。二人が極彩色の世の中で生きる力を与え合い、その中で自分たちだけの真実を見つけることが出来た瞬間、それと似た感慨が自分の中にもじわじわと広がっていきました。
98/09/01(火) 03:30