季節の中で

シクロ乗りの男がやっと手に入れた彼女との初めての夜。彼女に着てもらう為に買ったワンピース。彼女が着替えている間彼はベッドの(多分初めて見るベッドの)感触を確かめます。まるで子供のように。
なぜかその時僕は彼の姿を見て涙が出そうになりました。彼が本当に心の底から彼女のことを愛しているということが分かったから。

一見表情に乏しく見えるヴェトナムの人々。60年代、70年代の辛い経験が頭から離れないのはむしろ僕たちの方で、知らず知らずのうちに先入観を持って彼らを見るようになっているのかもしれません。
しかし蓮売りの女性が読むダオの詩は美しい韻を踏み、歌声は清楚な白い蓮の沼に響きます。ヴェトナムが美しい自然に恵まれた豊かな国だということが分かります。

この映画のテーマは出会いです。
どんなに大勢の人が一緒にいても決してそこには「出会い」はなかったであろうこの国に人と人が出会うことの出来る喜びが生まれ始めています。

「夢は必ず叶う」と力強く語る蓮売りの少女

貧しさや、寂しさを抱えた人々がそれでも自分達の孤独に向かい合い、そして自分以外の誰かの孤独をも感じることのできる喜びこそが彼らの夢だったのかもしれません。

ダオと蓮売りの女性、アメリカ人と娘、シクロ乗りと娼婦、少年と少女。どの出会いも本当に印象的で、全てがそんな喜びに溢れています。
また、そういう直接的な出会いだけでなく、思わぬ所で彼らが遭遇していたりするのも、非常に映画的で嬉しくなります。
アメリカからやってきた男が娘と待ち合わせをするシーン。娘が自分を受け容れてくれるかどうか分からず不安な彼と蓮売りの女性が出会います。蓮売りの美しい声と真っ白な蓮が優しく彼を助けてくれます。
出会ったことも分からないほどの出会いが誰かの力になっている。人と人が出会えることのもう一つの喜びがそこにあります。

映画はラストにまたヴェトナムの美しく豊かな自然を映し出します。

白いアオザイと火炎樹の並木、真っ赤な花びら。ダオの生まれ故郷を訪れる蓮売りの女性。

「夢は必ず叶う。」

一面の蓮の花が真っ白く水面を埋め尽くします。
00/01/13(木) 21:14
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