茄子 スーツケースの渡り鳥
表彰台に上ったチョッチは真っ先に仲間を称える。「これはチームの勝利だ」と。同郷の英雄、マルコに捧げるのではなく。
そして翌日、訪ねた寺で食事を振舞う日本人サポートスタッフのヒカルにも声をかける。「君はチームの一員だ。」。
これと対になるのは先に逝ったマルコであり、マルコのために1周短いレースを昇華したザンコーニである。チームとしての勝利や、苦悩の先にある喜びや安らぎを見ることなく孤高を選んだ者たち。
前作ではぺぺとギルモアの連携は見られたものの、それは競技の中のルーティンだけであって二人の間に魂の会話や意志の疎通は無かった。ぺぺはたった一人で走り抜き、そして故郷での勝利を手にした。
それとは対照的に、今回のチームパオパオはチームとして機能する。集団の押さえ役の二人と、それからオールラウンダーのぺぺ、そしてスプリンターのチョッチ。今回はチームプレイの奥深さと強さを丁寧に描いてくれていた。だから映画のクライマックスは、前作とは異なり、魂の会話を通じてチームのために献身を捧げたぺぺの、仲間に対しての、あの台詞だ。前を引こうとしたチョッチを制して彼は言う。
「ここは俺の見せ場だ。」
この作品の誠実なところは、チームプレイを選択したパオパオの面々と、孤高を選んだマルコやザンコーニの双方をリスペクトしている点だ。その二つは決して二者択一ではなく、相反するものでもない。
「人生は楽しく幸せであるべきだ」というチョッチたちが味わうことの出来る幸せは、節制を重ねて、ストイックに自分を負い込んで、諦めずに、胃液を吐くほどのギリギリのレースを走り切った、その先にだけあるものだ。
独りで逝ってしまったマルコは決して独りではなく、極限の戦いの中でだけ、チョッチやぺぺと繋がり、対話することが出来るのかもしれない。