幸福の鐘

良い映画を見た時に誰かの事を思い出すことってありますか?僕はあります。

いつもの道を歩いて帰る。段々早足になる。そのうち走り出す。特に理由もなく、それでも大切な人の顔が見たくて、顔を見せたくて走って帰る。
その日の出来事をお互いに話す。全部話す。少し興奮して、小さな子供のように。辛い事も楽しい事も全部話す。どんな日でも同じように。

「幸せってのはな、一人っきりじゃ味わえないんだよ。」

核心とも言える台詞に微妙に反応をしつつも歩く事を止めようとしない主人公。彼はまだ旅を続けるのでした。誰に出会っても、どこに行っても見つからないもの。
キラキラと光る星、でっかい朝陽。そこにあるもの、最初からそこにあったもの。背伸びして手に入れようとするものでもなく、どこか遠くにあるわけでもなく、誰かに与えてもらうものでもなく。歯を食いしばって守るものでもなく、でも実はどんなものよりも大事だったり。

彼は帰ります。ただ来た道を逆に戻るだけ。いつもと違う道から、いつもと同じ道を。いつもと同じ二人の会話を心地よい鐘の響きが優しく包みます。

「おかえり」で初めて寺島進に出会った僕にとっては、彼にとっての幸福が自分にとっても素敵なプレゼントを貰えたようで、嬉しくてホクホクしてしまいました。思えば「おかえり」は台詞なしでも豊かな表現が出来る彼の演技の確かさと、一生懸命に色んなことを話したり聞こうとしたりする彼の可愛らしさが共に詰まった、この映画の原型ともいえる作品でした。彼は顔だけで見たくなる価値のある俳優として主役も脇役もこなせる希有な存在です。何よりも僕は大好きだなぁ。
03/12/04(木) 11:19

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